日々のつれづれ

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翻訳の難しさ

ヴェルレーヌの「秋の歌(落葉)(Chanson d'automne)」は1866年に出版されたヴェルレーヌの処女詩集『サチュルニアン詩集(Poèmes saturniens)』に所収された作品でヴェルレーヌが20歳の時に書いた詩です。


この詩は日本では、上田敏の翻訳詩集『海潮音』(1905)に所収された名訳「落葉」で広く知られるようになりました。
“ヴイオロン”はフランス語のヴァイオリンのことですが、上田敏の訳があまりに知れ渡っているので、“ヴィオロン”とそのまま訳される方が多いようです。


翻訳詩の出だしは、上田氏が“秋の日の”、堀口氏と窪田氏がが“秋風の”と訳しています。
堀口氏訳の『ヴェルレーヌ詩集』(白凰社)の、堀口氏の鑑賞ノートによると、原作では“秋のヴィオロン”となっていて、日も風も入っていないので、以前は原作通り“秋のヴィオロン”と訳されていたそうです。
とても音楽的な詩です。


“ヴィオロンのためいき”という言葉は、どんな表現よりも、秋の哀愁を美しく表現していました。
ヴァイオリンの音色のようなすすり泣き、黄金色の枯葉のように、哀しみさえも輝くように美しい若さ。



フォーレ:3つの歌より「夢のあとに」


秋の歌(落葉)第一節 ポール・ヴェルレーヌ
Chanson d'automne 秋の歌


Les sanglots longs     長いすすり泣き
Des violons         バイオリン
 De l'automne         秋の
Blessent mon coeur    私の心を傷つける
D'une langueur      だらしない
 Monotone.         単調


普通に日本語訳すると・・ 秋のバイオリンの長いすすり泣きが
             単調でだらしないく私の心を傷つける


これじゃ、ポール・ヴェルレーヌの落葉も台無しですね。。。
日本人の翻訳と言うか、意訳(詩訳)する能力の高さにただただお驚くばかりです。
普通の日本語訳が彼らの手にかかればとても美しい立派な詩に変わります。
素晴らしいですね。


皆さんは、どの方の意訳がお気に入りでしょうか?


ポールベルレーヌの落葉  第一節日本語意訳


秋の日のヰ゛オロンのためいきのひたぶるに身にしみてうら悲し     上田敏訳


秋風のヴィオロンの節ながき啜泣もの憂き哀しみにわが魂を痛ましむ
                                    堀口大學訳


秋のヴィオロンがいつまでもすすりあげてる身のおきどころのないさびしい僕には
ひしひしこたえるよ

                                 金子光晴訳


秋風のヴァイオリンのながいすすり泣き単調なもの悲しさでわたしの心を傷つける


                                     窪田般彌訳



私は、やはり上田敏訳でしょうか。


ポール・ヴェルレーヌ


落葉


秋の日のヰ゛オロンのためいきのひたぶるに身にしみてうら悲し。


鐘のおとに胸ふたぎ色かへて涙ぐむ過ぎし日のおもひでや。


げにわれはうらぶれてここかしこさだめなくとび散らふ落葉かな。


上田敏訳
訳詩集『海潮音』(明治38年・1905)


                        なゆた